フィルム・ノワールを楽しみ、Film Noir Foundation を応援しましょう

The Come On

The Come On (1956)

この作品の何が彼をして記述させたのか?

 四百三十頁もある自伝 Wanderer の中で、出演した映画に関する記述はわずか十頁強。その十数頁の中で一番多く紙幅を費やしているのは The Asphalt Jungle (1950)『アスファルト・ジャングル』 なのですが、それは Dix 役のスクリーン・テスト時の心境と状況を詳述しているからでありまして、決して実際の映画撮影時の記述ではないのです。
 唯一、撮影風景を事細かに語っているのが、"We're making a feature picture, cheap and fast, out of sex and violent action, improvising as we go to make up for a script (co-written by the director) with shopworn scenes, bad dialogue, and weak characterization. They call it The Come On."「俺達は長編映画を撮っていた。安っぽい早撮りの、セックスと暴力の、(監督が共作の)脚本を間に合わせるために行き当たりばったりの、古臭いシーンと下手な台詞、それに薄っぺらな登場人物の映画だ。それを彼らは The Come On と呼んでいた」と初っ端から飛ばし捲くった描写で笑わせる、この作品なのです。
 ノワール・ファンが心から敬愛する Sterling Hayden。正しく “此人皆意有鬱結 不得通其道 故述往事 思来者” 実例・文系懊悩ノワール侍。Wanderer を読んでいて、幾度もわたしは涙を滲ませましたが、この作品の記述部分では爆笑し続けました。恐らく、自身の主演した大半の映画作品に対する彼の想いは、ここに書かれたものとほぼすべて同一なのでしょう。

ComeOne1

 とにかく、Hayden が格好良く、そしてそのぶっきら棒さにかなり酔えます。Anne BaxterJohn HoytJesse White という芸達者御三人に囲まれているので、余計に “演技をしていない” Haydenそのものっぷりが堪りません。もう、この作品の Hayden はどんな女性も「ぁあ、こんな男性(ひと)にこんな風にされたい!」と、そして男性も「おぉ、こんな風にしてみたいぜ!」と一度は夢見る行動を果敢にしてしまう美味しい役なのです。(ま、「行き当たりばったり」の脚本の結果ですが)
 さてお話はと言いますと、Hoyt と仮面夫婦・詐欺コンビを組んでいる Anne と恋に落ちてしまう漁師 Hayden。二人の仲を探るため、Hoyt が雇う探偵 White。Hayden を愛してはいてもお金への妄執を捨てきれない Anne は Hoyt 殺害を企み、Hayden は彼女への愛故にそれを実行しようとするのですが...という典型的なノワールであります。
 そして一般的な見所は White 演ずる下世話な私立探偵 J.J. McGonigle でしょう。彼の出番は Hayden とは別な意味で目が離せません。この作品の White はちょっと William Conrad を彷彿とさせるのですが、その小芝居度ときたら、もう、サイコーッ!!なのです。彼の “あの場面” は間違いなく、わたしの【ノワール “迷場面・珍場面” Top10】にランクインです(笑)

ComeOn2

 映画の舞台はメキシコですが、撮影はラグナ・ビーチで行われました。写真の右端は監督 Russell Birdwell。既婚者ですが、Wanderer によりますと、撮影当時 Anne(当時は独身)と付き合っていたようです。「同じ楽屋 {移動式トレーラー} を使用(今はただの友人同士)」と二人の仲を皮肉に表現したり、Anne の脚に見惚れている現場クルーを見て「The Bird {Birdwell を Hayden は文中そう呼んでいます} はそいつらに目をつけていた。やつらは今夜お払い箱にされるだろう」とか「{Anne とのキスシーンのために} 俺は俯いた。The Bird はこれを見てどう感じてるんだろうなぁ...と思いながら」と、映画の内容もろくすっぽ憶えていない割に、そんなどうでもいい事を思い出して笑わせてくれます。({}内は訳注)
 もちろん、すべての映画撮影中に起きたであろう、彼が忘れたくても忘れられない痛い記憶 -自分の台詞が出てこない状況- も回想します。そこでまた爆笑なのが、“プロ意識の高い演技派女優” として数多くの同業者から尊敬されていた Anne Baxter へ見解です。- "Miss Baxter always knows her words, maybe because she has money invested in the show."「Baxter さんはいつでも自分の台詞を心得ていた。多分この映画に投資していたからだろう」

 己の血肉を削り取るかのような痛みとそれを笑い飛ばす自己諧謔に満ちた Wanderer を読後、Hayden 主演の "quickeies"(早撮り低予算映画)を観賞すると<面白うて、やがて哀しき>深い深い喜びと哀しみがたっぷりと味わえるのであります。

powered by Quick Homepage Maker 5.0
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional